言ノ葉

【蔵元】2016年 年頭所感

  • 言ノ葉
  • 2016.01.07

読者の皆様、明けましておめでとうございます。
平素は嘉泉のご愛顧ならびにメールマガジンのご購読をいただき
誠にありがとうございます。田村酒造場 田村半十郎でございます。

昨年は海外のお客様向け新商品「東京和醸-Tokyo Wajo」をリリースし、
好評を得、順調に販売先を増やすことができました。引き続き、営業活動を
重ね、東京土産の定番品として成長させたいと思います。

また、初の試みとして、生産者から直接購入した酒米・山田錦で大吟醸を仕込み
ました。格段に米質が向上し、当蔵の仕込みとの相性も上々。
今まで悩みのタネだった酒米について、顔が見える直取引に大きな手ごたえ
をはっきりと感じました。

なかでも、昨年の年頭所感でお伝えした「田むら 吟ぎんが」の酒米(吟ぎん
が)の岩手県遠野市宮守地区における委託栽培の取組みについて、お話しし
たいと思います。

おかげさまで、酒米(吟ぎんが)は無事に初収穫を終え、現在は精米工程に進ん
でおります。全農の品質検査では一等級の評価を得て、後は今期の仕込みを待つ
ばかりです。生産を委ねた宮守地区の生産者の皆様も、本格的な酒米の生産、
直接出荷は初めての試みで、「絶対に失敗できない」という強い重圧に耐えな
がら取り組んだ一年となったようです。現在、宮守地区では農業の復興と創造
に力を入れており、雇用促進の面からも重要な仕事と捉えていただいているよう
です。 昨年2月には、生産者の皆様がそろって、遠路はるばる当蔵までバスでお
越しになり、蔵や仕込みの様子を熱心に見学されました。岩手から東京にいらっ
しゃったのに、どこも立ち寄らないで真っ直ぐ帰郷され、この仕事への真摯さと
情熱を感じました。

その後、酒米が成長するごとに、写真を交えながら報告をいただきました。
種籾を播き、芽ばえ、苗となり、田に植え、穂が出て、頭を垂れた稲穂とな
る過程を画像を交えながら、リアルタイムで見聞きすると、米は単なる原材料で
はなく、力強い生命を内包する「生き物」であることを再認識いたします。
台風が発生するたびに、天気予報から目が離せなくなり、緊張することと
いったら、想像以上。農業は自然が相手と言いますが、農家の方の気苦労の
一端を垣間見ました。

8月には「出穂(しゅっすい)」の知らせを受け、杜氏と一緒に現地へ
足を運びました。吟ぎんがが育つ宮守地区は岩手県南東部の内陸に位置する
遠野市西端にあり、元々は宮守村といい、10年前に遠野市と合併しました。
遠野盆地と言えど、周囲を低山が囲み、東北の里山そのもの風景。
なだらかな棚田が点在し、大規模米生産地とは趣を変えています。
生育環境が一番良いところを選んで頂いた吟ぎんがの青田はすがすがしくも
美しいものでした。
http://www.seishu-kasen.com/kuradayori/1851

10月には黄金色に輝く田と稲穂の画像を送っていただき、収穫の日を迎えま
した。
http://www.seishu-kasen.com/kuradayori/1868


そして、先述した一等級の知らせが舞い込むことになったのです。
宮守地区の生産者の皆様にとっても初めての全農品質検査ですから、不安を
感じてらっしゃったようですが、見事やり遂げていただきました。

私は酒造りに「米造り」という一工程増えたと感じています。
今までは原材料を調達するのが最初の一歩でしたが、今は、良い米を育てる
過程そのものも酒造りであり、良い米造りは良い酒造りといえます。
次は私たちのパートです。米の品質が良くなったのは間違いないのですから、
酒質も向上させねばなりません。出来上がった「田むら 吟ぎんが」は、酒造り
チームの一員である宮守地区の生産者の皆様に胸をはってお届けできるよう、
杜氏はじめ蔵人全員が、いっそうの緊張感をもって酒造りに取り組みます。

これは私のささやかな夢ですが、米の作り手と酒の造り手が力を合わせてでき
た酒を手に、和やかに豊穣を祝い、そして、来期のより良い酒造りを求めて
意見を酌み交わせれば、こんな素晴らしいことはないと思っています。
第一号となる「田むら 吟ぎんが」が成功すれば、きっと、当蔵のすべての酒質
向上につながる第一歩となるはずです。

さて、私の手元には1枚の絵画があります。
先代の15代目半十郎が気に入って、昔に、ふらりと買い求めたものです。
なだらかな山を背に棚田に寄り添って建つ茅葺き屋根の古民家2軒。
春先まで雪に覆われる北国の風景が描かれています。

あれは、米の生産を委ねる先を探し、悩んでいた早春のことです。
私は応接間にかける絵を選んでいました。その時、静寂の中で春を待つ山里の
風景が目に留まりました。数か月経て、無事に米の生産委託地が宮守地区に
決定したころ、季節も変わりました。その絵を収める時に、何気なく箱書きを
眺めると、そこにあったのは「岩手県宮守村 北国春雪 佐藤忠彦」の筆。
それはまるで啓示のごとく。田村酒造場と宮守地区の縁を感じた出来事でした。

今年も精進いたします。どうぞご期待下さい。
                                    
                          田村半十郎